Cha-ble_Vol16
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9地小濵 さっき勝田駅から乗車してきました。車窓からの眺めが田園風景から住宅地に変わると高校生が乗ってきて、隣に座った生徒さんと話しながらゴトゴト走るディーゼル車に揺られていると、鉄路は人やモノを運ぶ「鉄の道」であると同時に、ぬくもりのある「人の道」だなとつくづく感じました。吉田 朝夕は通勤・通学のお客さまが多いのですが、昼間は病院に行くお年寄りや、きょうのように天気が良くて暖かい日は勝田まで買物に行く人も多いのです。小濵 時間帯や天気で乗る人が変わるなんてぬくもりを感じる鉄道ですね。吉田 高校生やお年寄りにとっては、なくてはならない生活の足です。小濵 輸送手段というだけでなく、地域の暮らしにしっかりと根づいていること。人の香りやぬくもりを感じられるのがローカル線の魅力でしょうね。 しかしローカル線は全国で廃線が相次いでいますよね、現状をどう見ていますか?吉田 昭和40年代から車社会になって、都市部を除き鉄道は車にお客さんを奪われました。当社も最盛期には年間350万人だった利用客数が5分の1の70万人まで減り赤字路線になりました。この10年間に全国で30路線が廃線になっています。小濵 厳しい状況ですね。吉田 ええ。しかし、富山県にある万葉線というローカル線が平成14年に民間の鉄道会社が諦めた経営を地元の高岡市と市民が第三セクターという形で全国で初めて再建に成功しまして、それから少しずつ風向きが変わってきました。行政と市民が一緒になってローカル線を公共交通として残していこうという気運が生まれてきたのです。小濵 その頃ですか、吉田さんが「ひたちなか海浜鉄道」の社長になったのは。吉田 はい、6年程前です。当時、湊線は茨城交通という民間企業の赤字路線で廃線の危機にあったわけですが、「なんとか残せないか」「みんなで生活の足を守ろう」という気運が市民と行政の中に出てきまして…。小濵 たしか全国から公募で社長を募ったんでしたね。吉田 第三セクター方式のローカル線の社長は地元の首長さんがやるケースが多いのですが、ひたちなか市は全国から人材を募って面接をやったんです。 市長は行政のプロ、市民の足である鉄道を守るには鉄道のプロが必要だというひたちなか市長の強いリーダーシップがあったようです。小濵 市長さんはこの鉄道を収益性だけでとらえていなかったということでしょう。湊線は市民の福利厚生。だから徹底した経営努力の末に生まれる赤字は必要経費として予算に組み入れ鉄道を存続させる。リーダーとしての見識だと思います。ところで公募の社長はたくさん集まったのですか?吉田 応募者は50人程いたと聞いています。私もその中の一人でした。小濵 50人の中から吉田さんが選ばれた理由は何だと思いますか?吉田 後で聞いたのですが、最終選考で私は4番目か5番目だったそうです。ただ、地元の人と仲よく一生懸命やっていきたいという熱意が認められたようです。小濵 行政の人も見る目がある(笑)。小濵 湊線は再生の道を進んでいるわけですが、生き残れる鉄道と廃線になる鉄道の違いはどこにあるのでしょう?吉田 「鉄道を残そう」という地元の人たちの意志だと思います。万葉線や湊線は廃線の話が出ると即座に地元有志が存続を求めて声をあげました。市民の意志がまとまれば行政も動く。市民と行政のやる気が決め手だと思います。小濵 反対はなかったのですか。吉田 市民全体から集めた税金を沿線住民のためだけに使っていいのか、という声は当然あったと思います。そんな時に大きな支えとなってくれたのが地元の人たちでつくる「おらが湊鐵道応援団」。湊線のファンクラブです。私たちにとっては精神的にも経済的にも非常に大きな支えです。小濵 応援団はどのような活動をしているんですか?吉田 駅舎清掃や広報誌の発行、それにイベントや鉄道関連グッズの企画など精力的に活動してくださっています。小濵 どのような方々が活動しているのですか? 通称「湊線」。茨城県ひたちなか市と茨城交通が出資する第三セクター鉄道で勝田駅から阿字ヶ浦駅を結ぶ全長14.3km、9駅を運行。沿線には国営ひたち海浜公園や那珂湊おさかな市場、アクアワールド大洗水族館などの観光名所もあり鉄道ファンにも人気が高い。地域の人たちのファンクラブ鉄路は人の道茨城県の勝田駅と阿字ケ浦駅を結ぶローカル鉄道あじがうらみなとひたちなか海浜鉄道※第三セクター:国や地方公 共団体(第一セクター)と民間 事業者(第二セクター)との共 同出資で設立された法人てつ

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