Cha-ble_Vol16
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10吉田 地元の自治会、商工会議所の皆さん、それに沿線にある企業のOBの皆さん…。広報やサービス向上など、いくつかの委員会をつくって湊線をサポートしてくださっています。 ありがたいことに活動を続けていくうちに鉄道自体がテレビに出たり、観光客の間で話題になったり…。その様子を見て沿線以外の人たちにも「メリットがありそうだ」と思ってもらえたようです。小濵 大事なのは住民を巻き込んだ地域密着のファンづくりですね。イベント列車も多いと聞きました。吉田 夏にビア列車を走らせたら普段は車通勤のお父さん方が「10年ぶりに乗った!」と。駅舎を使った朝市を楽しみに待っていてくださる方も多いのです。輸送機関というだけでなく、これからは皆さんに楽しんでいただける企画を経営の新しい核にしていきたいと考えています。小濵 ファンに楽しんでもらえるイベントが大事ですよね。自分たちらしい手づくり感のある企画で。それにはお客さまの声を聴き、外からの良いアイデアをどんどん取り入れ、従業員が自分で考え行動する。そのために有効ならフェイスブックなどのソーシャルメディアを積極的に利用してさまざまな意見を取り入れるべきでしょう。吉田 たしかに外からの意見は非常におもしろい。だから私は「外からの意見はとりあえず聞いてみなさい」と普段から従業員に言っています。あるビールメーカーさんとの共同で企画したビア列車が盛況だと聞くと、地元の酒造会社さんが日本酒でやってみたいと。すると今度は地元のホテルさんがボジョレ・ヌーヴォーでやってみたいとどんどん広がっていく。秋葉原のメイドさんを連れてきてメイド列車もやりました。法令違反でない限り、とりあえずやってみるというのがスタンスです(笑)。小濵 ファン層を広げるには「なんでもあり」でないといけない(笑)。 従業員が自ら考え行動するにはコンプライアンスや企業哲学に外れなければ何をやってもいい。社内にそういう雰囲気をつくって従業員を解放することがリーダーの役割だと私は思っているのです。 食品スーパーのチェーンはこれまで統制型の組織で何でも本部の命令やマニュアルどおりに動くことを従業員に求めてきましたが、そうやって効率だけを求めていたらお客さまを楽しませることはできません。今や「安全、おいしい、価値ある価格」は当たり前。大切なのはその商品を、そのお店で買うことでいかに食事や買物を楽しめるかという価値の提供。食事をしている時に「きょうカスミでこんないい事があったよ」という話題を提供できるかどうかです。吉田 鉄道も似たところがあります。お客さまを安全に運ぶことが第一で、それ以外のことにはあまり熱心でないという面がありました。そういうローカル線が廃線になる一方で、生き残っているのは個性のある鉄道ばかりです。 市民と行政と事業者が一体で取り組んできた「鉄道を生かした街づくり」は地域のブランド化とローカル線再生のノウハウ共有という点で成果を残せたと思っています。小濵 企業がファンづくりをしていく上で最も重要なのは明確なビジョンでしょうね。その意味でカスミのような小売業の原点は地域です。単に食品を買う場所というだけでなく、あのお店に行けばふれあいや楽しい情報と出会える。地域の生活者になくてはならない存在になることが地域密着のファンづくりにつながるのだと思います。吉田 鉄道も地域と共にという考えが一番大切だと思っています。市民、行政、事業者が一体になって取り組めば赤字路線でも業績を向上させられることを湊線は証明しました。そのノウハウを知ろうと全国から多くの視察者がいらっしゃる。地域共生のファンづくりはこれからも広がっていくと思います。鉄道を生かした街づくりが地域のブランド化とローカル線の再生という成果を生んだ。(吉田)吉田 千秋(よしだ・ちあき)ひたちなか海浜鉄道株式会社取締役社長。富山大学経済学部卒業後、富山地方鉄道入社。全国初の「三セク路面電車」となった万葉線を再生させた手腕が評価され、2008年4月から鉄道会社としては全国初となる公募の社長として第三セクター鉄道の「ひたちなか海浜鉄道」へ。市民団体、行政と共同で鉄道と街づくりの活性化に挑む。外からアイデアを取り入れるサツマイモ畑の中を走る湊線駅員に抱かれる那珂湊駅の駅猫「おさむ」那珂湊おさかな市場は沿線の人気スポットの一つ

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