Cha-ble_Vol16
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11小濵 地域になくてはならない存在というビジョンを実現するには社内改革が不可欠ですが、6年前、再建を託された当時の社内はどんなムードだったのですか?吉田 長い間廃線のうわさが絶えなかった不採算部門です。人事異動もなく、65歳を過ぎた従業員が辞めるに辞められずに働いていました。最高齢は77歳。そんな職場でしたから再建への情熱とか活気とは程遠い空気でした。 お客さまも言っても仕方ないとあきらめクレームさえ出ない。クレームがないことの怖さを身にしみて感じました。小濵 どこから手をつけました?吉田 高齢な従業員には本人の意思にそってお辞めいただき、代わりに若手を採用しました。そして、「ありがとうございます」と笑顔で言うことから始めました。それくらいサービス業という意識が薄かったのです。小濵 運輸業は人やモノを安全に運べばよいという意識が強かったのでしょうね。吉田 それが変わったのはイベント列車のおかげだと思います。沿線の利用客だけでなく、さまざまなお客さまとふれあう機会が増えたことで、こうすればお客さまに喜んでもらえるという手応えを社員がつかみ始めた気がしています。小濵 お客さまが何を望んでいるか、その時その場で感じられる従業員を育てることが大切ですよね。たとえば、両手に荷物もったお子さま連れのお客さまがお店から出ようとしたら突然の雨。そういう姿を見た瞬間に自分に今何ができるかを判断できること。お客さまの喜びを自分の喜びに転換できる従業員を育てるためには、お客さまと従業員の心温まるストーリーをトップの責務として組織全体に紹介することが大事。そのことで従業員が仕事に誇りと喜びを感じるからです。小濵 震災の被害も大きかったと聞いています。吉田 線路が宙ぶらりんで全線不通になりました。直後は先行きを考えられませんでしたが、ありがたかったのはお客さんが「これじゃ湊線はダメだ」というのではなく、「いつ復旧するんだ」という声ばかりだったことです。小濵 復旧にはどれくらいかかったのですか?吉田 4カ月かかりました。あの頃、カスミさんの那珂湊店に買物に行くと「社長が昼間からぶらぶらしているようじゃ湊線も危ない」と誰かがうわさしていると聞きまして、昼間は買物に行かないようにしました(笑)。小濵 井戸端会議が盛んですからね、スーパーマーケットでは(笑)。吉田 復旧費用の3億円は市議会が即座に全会一致で補正予算を通してくれました。「湊線はあった方がいい」と市民の皆さんから認めてもらえた気がしました。小濵 地域のインフラ、なくてはならない存在ということでしょう。 カスミも25億円という甚大な被害の一方で、従業員は自宅が被災しているにもかかわらず、地域の生活者に当座の食料品を提供しようと自主的に寒風の店頭に立ってくれました。食品スーパーも地域のインフラ。いざという時に自分たちが何をすべきかを、それぞれが理解してくれていたことがうれしかった。改めて現場力を確認した気がしました。吉田 おかげさまで湊線は今年で100周年ですが、ここまで続いてきた理由は地域のお客さまの支持があるのが一番だと思っています。小濵 それが原点ですね。企業は地域のお客さまのためにある。そういう企業哲学が従業員一人ひとりにまで浸透し現場で行動できる企業が100年、200年と続く長寿企業になっていくのだと思います。(2013年10月30日、那珂湊駅に停車中の車両にて収録)小濵 裕正(こはま・ひろまさ)株式会社カスミ代表取締役会長。株式会社ダイエー専務取締役などを経て、2000年カスミ入社。2002年3月より2010年2月までカスミ社長を務め、同3月より会長職。無類のローカル線好きでもある。生活者になくてはならない存在になることが地域密着のファンづくりにつながる。(小濵)お客さまの喜びを自分たちの誇りに震災で確認した地域との絆湊線は地域の人たちの生活の足です

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