Cha-ble_Vol22
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小濵 野田さんは産総研で人工知能(AI)を研究されておられる。野田 AIと言っても分野は広いのですが、私は学習機能を持ったディープラーニングのようにすごく賢いAIではなくて、ほんの少し賢いAIをたくさん作ったときに何が起きるか、そういう研究をしております。小濵 どんなことに応用できる研究ですか?野田 たとえば交通渋滞です。もし皆さんが同じ情報を聞いて一斉に行動したら、全員が同じ道を選択して余計渋滞してしまいますよね。どうすれば分散してみんなが幸せになれるか、人の流れや動きをAIのシミュレーションで解く研究をやっています。防災の避難誘導や、株価や物価の急激な変動を回避するための仕組みづくりもテーマの一つです。小濵 アメリカで数千キロの距離を自動運転のトラックがビールを運んだという報道がありました。AIは基礎研究の時代から実用化の時代に移りつつあるのですね。第4次産業革命とリアリティをもって向き合う時期に来ているということでしょう。小濵 日本の小売業は非常に労働集約的で作業を単純化できていないため、一人の人間に複数の能力を求め、それを組み合わせて商品やサービスを提供しています。 ところが昨今の人口減と高齢化で人材確保が難しくなり、今後はAIやロボットの活用も考える必要が出てきています。そのときに重要なのは人間がやるべき仕事と、AIやロボットに任せる仕事をいかに峻別するかだと思っています。野田 学習機能をもったAIが人間の能力を超えたことが話題になりましたが、それは人間の幅広い知能領域のほんの一部をAIが上回ったに過ぎません。会話をしたり、相手の気持ちを汲み取るという点でAIは人間にまだまだ及びません。小濵 私は先日AIが導入された弁当づくりの現場を観ました。人間が弁当の具を詰め、その配置が正確かどうかをAIがチェックする。だから一つも間違いがない。改めて正しいモノづくりにAIは欠かせない技術だと感じました。野田 AIはチェックが得意です。100も200も禁止項目があると人間はミスを犯しやすいのですがAIは正確です。AIの活用で人間をストレスの強い仕事から解放し、その分より人間らしい仕事ができるようになることが望ましい方向性です。小濵 AIが得意とするのは、複数の選択肢を組み合わせて成果を出す「最適化」と言われますが、買い物やスーパーマーケットでAIを使って解決できる課題は何だと思いますか?野田 我々はオンデマンド型の公共交通システムを研究しています。簡単に言うと相乗りタクシーです。さまざまな人が自分の行きたい場所をスマホなどで登録し、よく似た方向に行く人を瞬時にまとめて配車する。そうすると料金も安く設定できるし、二酸化炭素の排出量も減って環境にもやさしい。 よく似た状況が小売りの現場にもある気がします。今は大量に仕入れて安く提供することが第一義になっていると思いますが、それに加えてさまざまなお客さまの好みや気分のような情報を上手く集めて最適な売場をつくる。個別対応ではコストが高くなりますが、上手くまとめてコストを抑えつつ消費者のわがままに応える。そんな付加価値の高いサービスがAIによって可能になると思います。小濵 アメリカのスーパーでは膨大なデータをAIが計算し、その日の最適な棚割り(商品を棚に陳列するときのレイアウト)を提供する仕組みが実験的に行われています。小濵 レジのポスデータは何が売れたかを分析することはできますが、先は読めません。野田 データは過去の傾向でしかありません。大事なのはそこに新しい条件を加えたときに人々の動きがどう変わるかを予測することです。従来は人間の勘でやっていたことをAIやビッグデータによってシミュレーションする。データに裏づけされたマーケティングが実践されるようになっていくと思います。小濵 小売業ではニーズの多様化や顧客の真のニーズとよく言いますが、解決策は出て来ていないのが実情です。野田 あらゆるモノがインターネットでつながるIoT(Internet of Things)が注目されていますが、その革新性は人間のデータが取れるようになった点にあります。今までモノのデータは実験室で調べればそれなりに分かったのですが、それを使う人間が何を考えどう行動するかというデータは非常に限られていました。 ところが、IoTで人のデータを取得してビッグデータ化し、さらにAIによる分析活用という流れが現実化する中で、真のニーズに対応した革新的な商品やサービスを提供できる可能性が高まってきたのです。 これまでメーカーは便利なモノを作ればリアリティをもって人工知能と向き合う時代生活者の「わがまま」に応える知能とは?技術革新で低くなる企業間の垣根©AIST©AIST,KAWADA Robotics産総研が開発した人間型ロボット7

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