Cha-ble_Vol22
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情報技術は消費者のわがままに対応することを可能にする技術国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター総括研究主幹。1963年兵庫県生まれ。1992年京都大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。人工知能学会副会長、情報処理学会会員、ロボカップ国際委員会会長、防災推進機構理事。野田 五十樹(のだ・いつき)売れると考えてきましたが、もはやそれでは差別化が難しく、単に作って売るのではなく生活者とつながることを重視しています。その点でも小売りの役割はますます重要になってくるのではないでしょうか。小濵 技術革新によって膨大なデータの活用が容易になれば、他企業との情報のやり取りにも変化が生まれるでしょう。従来なら企業ごとに非公開としてきた情報を、今後はメーカーさん数社とパートナーシップを組んで共有し商品開発に活かしていく。そうすることでヒット商品の確率が向上すれば研究開発コストも低減できる。商品のライフサイクルが延びて廃棄が減れば環境問題にも寄与できます。野田 日本の競争力の源泉は技術力でしたが、今、アジアの国々がどんどん追い上げています。その中で日本に今後も優位性があるとすると、私は消費者のわがままではないかと思っています。 日本の消費者の要求はすごくレベルが高い。逆に言うと、その声をきちんと取り入れることができれば、日本はアジアだけでなく世界で優位性をキープできると思います。 国内的には少子高齢化や地域間格差といった問題がありますが、企業がこうした課題と向き合うには消費者の細かい要望を上手く整理して、それぞれに合ったサービスを細分化して提供していくことが求められるでしょう。そのときにAIをはじめとする情報技術が役立つと思っています。 情報技術は画一的に何かを提供する技術ではなく、消費者の個別のわがままに対応できる技術だと私は考えています。これからはデータを上手く活用できるかどうかが競争の優位性を決め、社会の課題解決にも寄与していくと思います。小濵 カスミは買い物不便地域で移動販売を行っていますが、ご利用いただく高齢者のニーズは実に多様です。こうした面でも情報技術によって移動販売車と商品をつなぐことができれば、顧客満足と事業性の両立を実現できるでしょう。あるいは、自動運転のオンデマンドバスで高齢者にご来店いただくことも考えられます。野田 これからのスーパーマーケットはメーカーや生産者だけでなく、交通や宅配などさまざまなサービスと結びついていくと思います。小濵 インターネットでつながった冷蔵庫が中身を判断してお奨めメニューを提案したり、行きつけのスーパーから「そろそろシチューを食べませんか?」とスマホに連絡が来たり…。情報のやり取りが進化することで今までつながらなかったことがつながるようになる。人とモノのつながりを解決するのが進化した情報技術の役割なのでしょうね。野田 スマホのせいで子どもたちが遊ばなくなったという批判がありますが、使い方次第で親子の対話が増えたり、孫と一緒に歩き回る楽しみが増えたり…。技術には良い面と悪い面がありますが、悪い面だけを見て否定するのではなく、良い面を伸ばしていくことで人類は生き延びてきたのだと思います。小濵 サッカーワールドカップ優勝チームに勝てるロボットチームをつくることが研究目標の一つと聞きました。きっかけは何ですか?野田 1997年にスタートしたプロジェクトなのですが、実はこの年、AIがチェスで人間に勝ちまして、研究者仲間と「次はサッカーがおもしろいんじゃないか」という話になりました。 サッカーは実に曖昧な要素の多いスポーツです。地面はデコボコだし、邪魔も入る。メンバーは別々のことを考えていても、なぜかチームワークが形成される。そのサッカーでAIが人間を超えられたらおもしろいだろうと…。ただし目標は2050年、かなりの難問です。(笑)小濵 ネックは何ですか?野田 意思疎通です。私もロボットとサッカーをしたことがありますが非常に怖い。人間同士だと相手の動きに無意識のうちに反応できますが、ロボットは何を考えているか分からない。本能的な意思疎通ができないのです。小濵 以心伝心ですね。瞬時に組織的な行動に結びつかないあらゆる人とモノをつなぐテクノロジー人工知能で何を変えるか?野田さんが研究するAIを使ったオンデマンド型バス(右)とサッカーロボット(左)8

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