Cha-ble_Vol26
7/16

サッカーは元々あった健常者の競技から発展したスポーツですが、ゴールボールは障がい者スポーツとして独自の発展を遂げてきました。 元々は多くの障がい者を生んだ第1次世界大戦後のオーストリアやドイツで、目に傷を負った軍人のリハビリとして生まれたスポーツだと聞いています。藤田 見えないボールを体で止めるには、音や振動を感じ取る必要がありますよね。その感覚がすごいと思います。山口 ボールが選手に当たった音で、今のは手のひらとか、真ん中の選手のお腹とか、その選手がどこに動いたとか、1球1球観察しながらコートの中でチームメイトとコミュニケーションを取りながら戦います。藤田 すごく精密ですね。ボールが当たる衝撃はすごいんですか?山口 はい。バレーボールと同じ広さのコートでやるんですが、相手がボールを投げて自分たちのディフェンスに当たるまでに0・6秒、重さ1・25㎏のボールが時速70㎞でやって来ます。小濵 相当な迫力ですね。藤田さんはいつ自転車と出会ったのですか?藤田 両脚が義足になったのは19歳の時でした。大学2年の夏休みに交通事故に遭い、両足の膝から下が治せないような状態になり、切断するかどうかの判断を両親から委ねられました。小濵 重い決断ですね。藤田 事故に遭う数カ月前からトライアスロンを始め、大会出場を目指して自転車に乗り始めていました。その矢先だったので、かなり悔しかったです。 ただ事故に遭う前、義足でトライアスロンに挑戦する人のテレビ番組を見たことをふと思い出し、またスポーツができるようになる可能性もあると思い込んで切断を決めました。以来、義足で歩く、走る、復学する、そして自転車に乗ることを目標にリハビリを続けました。諦めが悪いんです。(笑)小濵 逆境でもへこたれない強い心が乗り越える力になったのですね。 実は私も5歳の時、疎開先で遭った交通事故が原因で右脚が今も曲がらない。以来、走ったり、正座はできないけれど、ゴルフもボウリングも卓球もしますよ。人には負けるかもしれないけれど、人並みのことができると思えば、人生の可能性は広がる。そう思って何にでも挑戦してきました。 ゴルフでホールインワンをしたことがあって、賞金を障がい者ゴルフトーナメントに寄付したんです。その時初めて障がい者のゴルフを見たのですが、目の不自由な方や、腕や足に障がいを持つ方も工夫して健常者より飛ばす姿を見て感動しました。人はやる気さえあれば無限の可能性があると気づかせてくれたのも障がい者スポーツです。日本代表の誇りと重圧小濵 山口さんは、大学生ですよね。山口 東洋大学・社会福祉学科の4年です。小濵 大学生活と競技生活の両立は大変でしょう?山口 大学は都内で、練習拠点は所沢市(埼玉県)にあります。どちらへも取手市(茨城県)の自宅から白杖をついて電車で2時間ほどかけて通っています。独自のスポーツのため使える施設も限られており、各地から選手が集まって練習をします。小濵 藤田さんは建設機械メーカーでエンジニアとして働きながら選手生活もしていますよね。仕事と競技、二足のわらじで世界のトップレベルを維持するのは並大抵ではないでしょう。藤田 両立というよりは、両方とも最大限の成果を出すという気持ちでやってきました。1日は24時間しかないですし、自分の体も一つですから大変なのは確かです。ただ、仕事も任された以上は最善を尽くすのが責任ですし、競技も多くの方々にサポートしていただいている以上、日本代表として高いレベルで活動をしていこうという思いがモチベーションになっています。大変ですが、仕事も自転車も楽しさを見つけられているから続いているのだと思います。山口 私も今年大学4年生だったので練習と就活の比重で悩みました。だから藤田さんのように、両方とも最大限の成果を出すという考え方は本当にすごいと思います。藤田 2008年のリーマンショック以降、企業がスポーツ部門を縮小するケースが相次いだこともあり、自分の力を最大限に使って成果を出そうとする選手は多かったと思います。小濵 車いすバスケやブラインドサッカーなど、日本でも少しずつ障がい者スポーツが話題になるようになりましたが、健常者のスポーツと比べると認知度はまだ低いですよね。もっと地域の人たちや企業の社員が障がい者スポーツの大会に応援に行くような動きが出てくると、普及にも弾みがつくと思うのですが…。山口 私は周囲の友人や地域の方々、そして家族に支えられて今があると思っているので、競技で自分自身が戦っている姿を見ていただくことで恩返しをしたいという気持ちが原動力になっています。小濵 藤田さんは健常者のレースにも出場するそうですね。藤田 はい。健常者の強い選手と戦うことで自分がより強くなれると思っていますので。どこまで速くなれるか、どこまで高いところを目指せるか、強くなるために自分の可能性を追求することが今のモチベーションになっています。山口 より強くなりたいという想いは私も同じです。昨年は自分自身の限界を試すため、武者修行に一人で中国に行きました。国内で強くなることはもちろんですが、ゴールボールの場合、さらに上を目指すには海外に出る必要があります。働くことによる社会参加小濵 お二人は障がい者スポーツの現状をどうご覧になっていますか?障がい者スポーツの自転車競技は、自転車専用の屋内走路で行うトラック種目と屋外の道路を使って行うロード種目があり、限界までペダルを回す戦いは迫力十分。競技は障がいの種類や程度によりクラス分けがされており、クラスごとに使用する自転車も異なる。障がい者スポーツならではのゴールボールは、目隠しをした選手が1チーム3人で対戦する競技。攻撃側は相手のゴールを狙ってボールを転がし、守備側は3人の選手がゴール前で横たわってボールを止める。鈴の入ったボールの音や足音から位置を判断する。写真提供:M. FujitaⒸRyoICHIKAWA/JapanGoalballAssociation7

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る