Cha-ble_Vol27
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5とにかく何でもいいからグローバルトップを目指そうと。山元町で育った農業技術、日本のイチゴの魅力が世界で通用することを東北の人たちに実感してもらいインパクトをもたらしたかったんです。小濵 イチゴで一点突破?岩佐 はい。突き抜けないと埋もれてしまいます。だから、GRAはイチゴの研究開発、生産、イチゴのスパークリングワイン、イチゴの化粧品、イチゴスイーツ専門カフェ。とにかくイチゴしかやっていないんです。そこだけはブレません。1万人の雇用をつくる小濵 「1万人の雇用を生み出す」というビジョンを掲げていますね。雇用創出を目標にした理由は何ですか?岩佐 農場を始めた理由は、この町に産業と雇用を生み出し地域を再生させたいという思いからでした。いい雇用があれば人が集まり、人に提供するサービスが集まり、町が元気になっていく。そういう好循環をつくるためにも雇用が必要なのです。小濵 高齢化や人口減少で地方が停滞していく中、これからの企業には、いかに地域と共生していくかという視点が求められます。その上で新しい産業や雇用を生み出していくことが経営者の仕事になっていくと私も思います。 岩佐 同感です。GRAは経営ノウハウを学んでゼロからイチゴ農家を目指せる就農支援事業も行っています。 今年は4期生8人が研修に入校しました。ITを活用した最先端の生産や経営手法を1年間かけて身につけ、独立経営のイチゴ農家を目指します。これまでに12人がイチゴ農家として独立しています。小濵 これからの地方再生の切り札は農業です。今、私は二つの地域が気になっていて、一つは岩手県陸前高田市。震災以降、カスミは陸前高田の子どもたちの支援を続けていますが、子どもたちが成長し大人になった時に夢をもって働ける場所が少ない。 もう一つは、カスミの創業の地でもある茨城県。農業県でありながら、耕作放棄地が増えています。食に携わる企業人として、農業で地域貢献するのが私の夢でもあるのです。岩佐 陸前高田は気候も温暖だしイチゴづくりに向いていますよ。小濵 陸前高田との交流はこれからも続けますが、次のステージは産業や雇用という視点からも役に立ちたいと考えています。岩佐 志ある人を1年間GRAに派遣してください。トレーニングして送り返しますよ(笑)。小濵 農業に必要なことは何ですか?岩佐 今、日本の農業従事者の平均年齢は67歳。どんどん高齢化が進んでいます。この状況を変えるためにも、若者が農業に入ってきたくなるようなモデルを提案していくことが重要です。いいモデルがあれば人は必ず集まってきますから。 太平洋に面する山元町にはいい波が来ます。朝、サーフィンをしてからイチゴ農場で働くことも可能です。これまでなら15年かかった栽培技術を1年で身につけ、農家として独立すればサラリーマンより収入も多い。そういうワークスタイルやライフスタイルをモデルとして提案したいですね。 小濵 IT農業って面白い、しかも実入りもあると感じた若者が地方に集まれば、まさに地域再生のモデルになるでしょう。その様子をもっと発信していくべきですね。岩佐 実は地方って都会の人にとっても重要なんです。ニューヨークも渋谷もそうですが、都会の魅力は混沌としたざわざわ感。その正体はいろいろな土地からいろいろな人が集まってできた多様性にあると思うんです。イノベーションもそこから生まれる。 だから、なぜ地方が元気である必要があるかというと、国全体が多様性、元気を失わないため。地方には経済合理性だけでは語れない素晴らしさがあるんです。小濵 震災から8年余り、復興にはまだ多くの課題がありますが、きょうは社会的な意義とビジネスマインドを持ったリーダーと出会えて楽しかった。陸前高田の若者にも、この熱を伝えますよ。(2019年6月26日、宮城県山元町にあるGRAのイチゴハウスにて収録)株式会社カスミ取締役会長2000年株式会社カスミ入社。 2002年から2010年まで代表取締役社長、2010年に代表取締役会長。2017年より現職。2018年5月日本チェーンストア協会会長就任。小濵 裕正(こはま・ひろまさ)地域との共生という視点から産業や雇用を生み出すのが企業経営者の仕事になる(小濵)ひと粒1,000円の「ミガキイチゴ プラチナ」、食べる宝石をコンセプトにパッケージデザインはダイヤモンドをモチーフにしているサーフィンが趣味の岩佐さん(右)は仕事の前に海へ

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