Cha-ble Vol28
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半身が不自由になった同僚の一言から小濵 東京ガスさんがつくった『片手でクッキング』というレシピ本が好評ですね。原口 ありがとうございます。障がいや病気で片手しか使えない方でも、ちょっとした工夫やアイデアで楽しく簡単に料理ができる機会を増やせたらという思いで作成しましたところ、おかげさまで多数のメディアで取り上げていただいております。小濵 取り組みの経緯を教えてください。原口 同僚が右片麻痺になってしまい、利き手交換の大変さ、大好きな料理も思い通りにいかないと聞いたのがきっかけでした。以前から東京ガスは、障がい者スポーツ支援や食文化の発信に力を入れておりましたので、共生社会の実現に向けた取り組みの一環としてスタートしました。小濵 私も今回初めて体験しましたが、片手しか使えないことの大変さを実感しました。原口 何が一番大変でしたか?小濵 切ることですね。片手だと食材を固定して切るのは難しい。原口 私も普段は当たり前に両手を使っていますから、体験して初めて片麻痺の同僚の気持ちを共有できた気がしました。改めて体験することって大事だと思います。小濵 小冊子には片手で調理するための工夫や調理器具なども紹介されていますが、作成するうえでは料理だけでなく、障がいに関する専門的な知見も相当に必要だったでしょうね。原口 はい。このプログラムは横浜市リハビリテーション事業団の作業療法士の皆さんに監修をお願いしました。同事業団が実施している片麻痺の方のリハビリの一環として行う料理教室を見学させてもらいました。小濵 リハビリのための料理教室ですか!?原口 そうなんです。明るく生き生きと楽しそうに料理をする皆さんの姿がとても印象的でした。小濵 なるほど。リハビリに料理が有効とは知らなかった。 どのような人が片麻痺になるケースが多いのですか?原口 生活習慣病などに起因する脳血管障がいが主な原因のようですが、高齢者ばかりでなく、意外と40〜50代の働き盛りの方も多いと聞きました。そういう方は皆さんまだお元気なので、片手でも料理を楽しみたいという方も多いのです。食のプロと障がいのプロのコラボレーション小濵 レシピ本をつくる上で工夫したのはどんな点ですか?原口 一つには片手でも使いやすい調理器具のご紹介です。片手で一番困るのが食材や器具を手で押さえられないことなので、固定するために「くぎ付きのまな板」や「ぬれ布巾」を使います。ほかにも片手でも使いやすい道具や、調理の準備・片づけの工夫などもご紹介しています。 メニューづくりでは簡単でおいしく、つくっていて楽しくなるような献立を心がけました。なるべく単純な工程で味付けもシンプル、それでいてカフェごはんのようにオシャレに。 今日、小濵会長につくっていただいたのは「ツナとトマトソースのペンネ」、「鶏肉の炭火焼風」、「グリル野菜」。3品を20分でつくっていただきました。小濵 私のように料理が得意でなくてもつくりやすい献立になっていますね。原口 ありがとうございます。この取り組みを通して気づいたのですが、もしかするとこのプログラムは誰もが対象になる可能性があるのではないかと…。小濵 確かにそうですね。高齢者とか、健常者でも何となく手が不自由な方とかね。原口 私の母もそうですが、近ごろ握力が弱ってしまったり…。 実は東京ガスのWEBショップで、片手でも使いやすい調理器具の販売を開始しました。見た目にもオシャレで、障がいのある方に限らず、子どもから高齢者まで男女年齢を問わず便利に使えると好評で、ヒット商品になっています。小濵 料理を楽しむうえではオシャレや使いやすいという視点はとても大切ですよね。 何より料理を楽しむことは、障がい者にとっても健常者にとっても元気や笑顔につながります。原口 私もそう思います。料理は手を動かす調理作業だけでなく、そのための段取りや献立を考えたりすることが、肉体的にも精神的にもすごくいいと聞いたことがあります。 東京ガスグループに勤務する片麻痺のパラ水泳選手に、片手でクッキングを体験してもらったことがあるのですが、「料理の幅が広がると生活がグンと豊かになる」と感激していました。小濵 アスリートにとっても食は大切ですからね。7

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