Cha-ble Vol30
5/16

5お金とつながりの不安が子どもの貧困を生む小濵 私は育った環境が母子家庭でしたから、世が世なら子ども食堂のお世話になっていたでしょう。食べるものがなくてお腹がへったときなど、道端に落ちているものでも土だけ払って妹に食べさせたこともありました。笠井 当時、どんなことが一番生きづらいと感じましたか?小濵 学校ですね。幼い妹を学校に連れて行きたくても、みんなからアレコレ言われるだろうと肩身の狭い思いをしました。笠井 そこですよね。持続可能な社会と言いながら、日本では貧しい人は肩身が狭いと感じてしまいます。小濵 なぜでしょうね?笠井 カンボジア支援を20年以上続けていますが、あちらの子どもは弟や妹をおぶって学校に行くことが普通です。初めてカンボジアに行って驚いたのは、「貧困」という言葉がないこと。そのとき気づいたんです、貧困という言葉を使うのは豊かな国だけなんじゃないかと。 たとえ自宅がぼろ家でも、カンボジアでは隣の家と比べて負い目を感じたりしません。貧しくても仲良く暮らしています。小濵 みんなが貧しいからでしょうね。 今、全国で子ども食堂の活動が広がっていますが、その役割をどのようにお考えですか?笠井 誰もが集える交流の場と位置づけている子ども食堂もありますが、私たちはあえて貧困の子どもだけを対象にしています。それは本当に困っている子どもたちを助けたいからです。小濵 子どもの貧困と聞いても、今の日本ではあまりピンとこない人も多いのではないかと思いますが、厚生労働省の調査では子どもの7人に1人が貧困状態にあると言われています。 子どもの貧困の定義は「平均的な可処分所得の半分(127万円)を下回る世帯で暮らす子ども」ということですが、現場感覚としてはどのようにとらえていますか?笠井 分かりやすく言うと「お金だけでなく、いろいろなことが足りなくて困っている」ことを私は貧困ととらえています。 たとえば、給食や文具や制服など学校に関する費用がいつも足りないだけでなく、そのことを相談する大人がいないといったメンタル面の不安も子どもの貧困につながっていると思います。課題を共有し共感の輪を広げる小濵 子ども食堂を始めたきっかけは何だったのですか?笠井 もともとはボランティアでホームレス支援に関わっていたんですが、18年前に子どもの電話相談を始めて、その後10年間で約7万人の子どもたちの生の声を聞き、貧困の実態を知ったのがきっかけでした。 ある小学3年生の女の子が電話をかけてきて「冷蔵庫にシャケ缶が一缶だけあるんだけど、これだけで1週間もたせるにはどんな食べ方をすればいい?」と聞くので、「どうして?」って聞き返すと、「お母さんは水曜日だけ帰って来るんだけど、今週は帰って来なくて」と。そういう電話が少しずつ増えてきて、電話相談だけでは子どもたちのお腹は満たされないなと思って始めました。小濵 カスミは地域の福祉施設などに食品を寄付するフードバンク活動を続けてきました。現在、カスミ全体の6割に当たる112店舗(2020年11月末現在)で実施していますが、このほど地域の子ども食堂への寄付も始めました。 私が初めてフードバンク活動を知ったのはアメリカでした。スーパーマーケットの店頭に保管箱が置かれていて、その中にまだ食べられるのに不要になった食品を従業員が入れていく。お客さんも家から持ってきて入れるんですよ。 おそらく最初は食品を有効利用したいという考えから始まったと思うんですが、やがて食べ物を必要としている人に使ってもらう方が価値があるという認識に変わったのではないかと思います。笠井 カスミさんから食品を寄付していただくようになって、ある若いカスミの店長さんとお会いしたときの言葉が私は忘れられないんです。 「この活動で手間が増えちゃって申し訳ないですね」と私がごあいさつしたら、「僕はスーパーに入社して、こういうボランティア活動に参加できるとは思ってもいませんでした。でも、こういうチャンスを与えてくれる会社に入社して良かったです」とその店長さんがおっしゃって。こちらがお礼を言われたようでうれしくなりました。小濵 ありがとうございます。それは大変うれしいお話ですね。 スーパーマーケットは食品の提供が役割ですが、それが全てではないと思っています。お店のある地域にはさまざまな人たちが生活していて、それぞれに課題を抱えています。でも、従業員がお店の商品補充のことばかり考えていたら、そういうことに思い至ることもできません。ですから従業員がさまざまな社会貢献活動に参加できる「場」をつくることが重要だと考えています。 カスミは地域に木を植える植樹祭や被災地を支援する活動などを続けていますが、フードバンク活動もその中の一つです。社会貢献活動に従業員が参加して地域の皆さんと課題を共有することが、一緒に解決していこうという意識を育てることにつながると思っています。ハロウィンのこの日のメニューは子どもたちのリクエストに応えてハンバーガーとさつまいものスティックフライです!おいしそう!お母さんたちの手づくり弁当です!

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る