Cha-ble Vol30
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6私たちが理想としているのは「子ども食堂」のない地域社会(笠井)貧困問題の本質は希望をもてるかどうか小濵 食堂以外にも、無料学習塾や制服・ランドセルの支援など活動は多岐に及んでいますね。活動内容はどのように広げてきたんですか?笠井 子どもには空腹以外にもいろいろな困り事があります。パンツがないとか、靴下に穴が開いているとか、一つひとつに応えているうちに事業内容が広がってきた感じです。卒業式の親代理出席や入学式の準備、住居の確保や病院の付き添いなど、とにかく困り事はいろいろなので、「やれることをやっていく」というのが方針です。小濵 一緒に活動しているスタッフは、どのような方々なんですか?笠井 年齢は10代から80代まで、男女問わず、約100名のボランティアスタッフが関わっています。主婦、学生、働き盛りの男性、定年退職後の方、本当にさまざまです。小濵 働き盛りの男性もいらっしゃる?笠井 はい、特別なことをしなくてもいいから多分関わりやすいんだと思います。おにぎりなら握れますとか、小学生の勉強なら教えられますとか。いつ来ても、短時間でも関われるのがいいのかもしれません。小濵 今、地域のコミュニティーはつながりが希薄になっていますから、昔のように地域のお年寄りや大人たちが子どもたちと関わる場も減ってきています。笠井 確かにそうですね。カスミさんのイートインコーナーでは、おじいちゃんやおばあちゃんが座ってお話ししてるのを見かけますけどね。きっと心地よい居場所なんでしょうね。居場所って「さあ、ここが居場所ですよ」という感じでできるものではないと思うんです。小濵 そうですね。いつでも誰でもいらっしゃいと門を開いていることが大事なんでしょうね。食品の提供だけでなく、居場所の提供もスーパーマーケットの大切な役割です。笠井 子どもだって同じです。経済的にしんどくて、居場所がないことが、その後の成長や生き方、人格形成にどう影響するか。それは計り知れないと思うんです。 もし成長段階で支援する大人や地域社会との交流がなければ、生まれた環境に左右されたまま生きていくことになり、結果として自分の将来に希望や自信が持てなくなってしまいます。小濵 貧困というと食べるものがあるかないか、生きるか死ぬかという視点で考えがちですが、実は子どもたちが希望を持って生きていけるかどうかに貧困問題の本質があるのかもしれません。笠井 いじめられるという理由で、貧困の子だけが集まる子ども食堂へは本当に支援が必要な子が行かなくなるという批判がありますが、私は違うと思います。 子どもの貧困問題の背景には、貧しいことが恥ずかしいことという意識がある気がします。でも、貧困の子どもたちの親は決してさぼっているわけではありません。一生懸命働いているけど追いつかないんです。特に今回のコロナ禍では非正規雇用や一人親世帯など経済的、社会的に弱い立場の人たちにしわ寄せがきています。小濵 大切なのは取り残された人たちに対するケアなのに、そういう視点が行政には不足しています。感染防止策は最優先事項ですが、本来ならコロナ禍での疾病予防や健康維持では栄養補給がとても大事。困窮家庭にもっと食べ物を届ける必要があります。笠井 そうなんです。本来なら子どもたちが集まって来るのが子ども食堂ですが、感染防止のために私たちも3月からは休止して各家庭にお弁当を宅配しました。 よかったのは宅配することで、子どもたちの家庭環境を直に感じられたこと。玄関を開けた途端に困っていることが垣間見えるんです。スタッフにも貧困を考えるんじゃなくて、感じてもらえたかなと思います。「貧」を見ないで「困」を見る小濵 子ども食堂を運営していく上で課題はなんですか? 認定NPO法人「NGO未来の子どもネットワーク」代表理事。17歳の少年犯罪をきっかけに不登校児向け相談をしていた仲間とNPO設立。2003年から茨城県龍ケ崎市で子ども専用電話相談を開始。14年より生活困窮家庭を対象とする無料学習塾と子ども食堂を開設運営。会員数約100名、ボランティア登録者数約80名。笠井 広子(かさい・ひろこ)

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