Cha-ble Vol30
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7子どもの貧困対策や食育を通じ地域と連携して社会課題の解決に貢献したい(小濵)笠井 これから子ども食堂を始めたいという方から「開設資金はどうしたらいいんですか?」とよく聞かれるんですが、私はいつも「資金がなくても、とりあえず始めることです」と答えています。資金がないとやらない活動って、たぶん淘汰されてしまいますから。小濵 その通りですね。笠井 無茶かもしれないけれど資金は後回し。必要と感じたら、まず始めることです。 今、私たちは週に5日活動していますが、困っている子は週に5日だけ生きているわけではありません。だから1年365日、生きるために食べられる場所をつくりたいのですが、現状では人が足りません。 毎日運営するとなるとボランティアスタッフだけでは難しくなりますが、利用者の守秘義務の問題もあり、むやみに人を増やすわけにもいきません。小濵 やはりマンパワーが一番の課題なのですね。 でも、人を増やして組織を大きくすれば課題を解決できるとは限りません。このコロナ禍は経済的、社会的に弱い立場に置かれた人たちの存在を改めて浮き彫りにしましたが、これを機に地域の中で見落とされてきた子どもの貧困について、より多くの人に関心を持ってもらうことが大切でしょうね。笠井 SDGsは誰もが安心して生活を営める地域のための目標ですが、その対極にあるのが子ども食堂ではないかと思っています。子ども食堂が増えるということは地域の中に困っている子どもが増えているということです。そう考えると子ども食堂のいらない地域をつくっていくことが、「誰一人取り残さない」を誓うSDGsにつながっていくと思います。小濵 貧困を考える上で大切にしている点は何ですか?笠井 生まれながらに困っている人に、「困っているのは努力が足りないから、怠け者だから」という意識を持つべきではないと思います。「貧」を見ないで「困」を見ることが大切だと思っています。小濵 子ども食堂では食事の提供の他にもさまざまな活動をされていますが、子どもたちが喜ぶのはどんな活動ですか?笠井 お墓参りは喜びますね。子ども食堂の施設を無償で提供してくれている大家さんの、亡くなったご主人のお墓参りに行く話をすると、「私も行く行く!」とみんな喜んで付いてくるんです。先祖代々や家族のお墓がない家庭の子が多いですから。小濵 生活催事や年中行事も成長には必要な経験です。ただ食べるだけでなく、お年寄りや大人と対話しながら健康に良いもの、旬の味、地域の食習慣といった知識を学びながらの食事は成長期にとても重要です。笠井 近ごろ高齢者福祉施設で子ども食堂を運営する施設も増えています。地域の高齢者がいて、子どもがいて、それに支援する大人がいて、安心して楽しく食事ができたら多世代交流の場としてもいいですよね。小濵 社会課題の解決に立ち向かうのは企業の大切な役割ですが、企業単体での取り組みには限界があります。皆さんのような子ども食堂と私たちカスミ、そして地域社会の連携で多くの人たちの意識や行動が変わるような活動をこれからも続けていきたいですね。最後に子どもたちにメッセージを!笠井 今は大変でも絶対に生きていけるから、投げ出さずに今を大切に生きてほしいと思います。もちろん、それは子どもだけでなく、困っている全ての人にそう伝えたいです。そのために、私たちは活動の輪を広げ、より多くの人に関わっていただけるよう橋渡しをしていきたいですね。小濵 日本は決して貧しい国ではありません。だから、自分が貧乏だったり、困っていたら、SOSを発信すれば必ず助けてくれる人が大勢います。人を信じて生きていってほしい、必ず生きる道はあるから、と私は伝えたい。そして、子どもたちのそういう声を聞く耳を持つことがわれわれ大人の責任です。 SDGsは世界共通の大きなゴールというだけでなく、目の前の地域の人たちの未来に向けた目標であることを忘れてはいけないですね。今日はありがとうございました。(2020年10月19日、カスミつくばセンターにて収録)株式会社カスミ取締役会長2000年株式会社カスミ入社。 2002年から2010年まで代表取締役社長、2010年に代表取締役会長。2017年より現職。2018年5月から2020年5月まで日本チェーンストア協会会長。小濵 裕正(こはま・ひろまさ)

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