Cha-ble Vol. 31 2020年6月
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7に多くの時間と距離がかかる。野菜の鮮度は落ち輸送コストも高く、これが農家にとっても、われわれ購入者にとっても大きな問題になっていたわけですよね。加藤 そうなんです。そこで私たちは、限られた地域で新鮮な野菜を素早く、低コストでやりとりするEコマースのプラットフォームをつくりました。 飲食店や小売店などの購入者は、ウェブ上で生産者を指定して野菜を注文できる。注文を受けた生産者は、野菜を収穫して最寄りのバス停に置いておくだけ。これをドライバーが受け取り、購入者の最寄りのバス停に届ける。購入者は好きな時に取りに行けばいい。 ルート上につくったバス停とバスに見立てたトラックを全ユーザーが共有することで、輸送時間とコストの大幅削減に成功しました。さらに、両者は野菜のリクエストやおすすめ情報、届いた野菜に関持続可能な農業のために山本 東京大学で農業ロボットを研究し、米航空宇宙局(NASA)にもいらしたことがあるんですね。NASAでは何を?加藤 宇宙植物工場の計画に携わっていました。山本 その加藤さんが、農業の、しかも物流に目をつけた理由は何ですか?加藤 昔から、毛玉のようにこんがらがったものを解きほぐすのが大好きで。(笑) 高齢化と人手不足に苦しむ日本の農業問題に首を突っ込んだら、関わる人たちが毛玉みたいになっていて、解きほぐしだしたら止まらなくなって…(笑)山本 日本の農業の課題は何だとお考えですか?加藤 私もあれこれ失敗を重ねる中でたどりついたんですが、結局、物流をすっきりつなげないと農業は持続可能にならないんじゃないかと。 誰か一人が頑張るのではなく、例えば農家さんだけ休みなく働くとか、カスミさんだけが安く売るとか、物流会社さんだけの負担が増えるとか、そういうことだと結局どこかにひずみが出ますから。山本 そうですね。頑張れば、頑張るほど、ひずみは大きくなる。加藤 だから野菜をつくる人、売る人、運ぶ人、食べる人を一つのサイクルにしてつなぎ、みんながハッピーになるにはどうしたらいいかなぁという視点で考えました。山本 それで、やさいバスという共同配送システムが生まれるんですね。 生産者は、おいしい野菜を新鮮なうちに届けたい。しかし、農協や市場を経由する流通網では、収穫してから届くまでするフィードバックなどの直接コミュニケーションもできます。山本 まさにマッチングですよね。ある農家さんがこんな野菜をつくっていますという。一方で、あるイタリアンシェフがこんな野菜がほしいと…。その両者をつなぐことができるわけですよね。加藤 そうです、そうです。もう指名買いですね。山本 お客さまニーズに合わせて商品やサービスをカスタマイズすることが潮流になる中、やさいバスも従来のマス・マーケティングとは異なる、消費者と生産者をワン・トゥー・ワンでつなぐ新しい仕組みですよね。加藤 ありがとうございます。山本 後継者不足が深刻な農業ですが、カスミの地盤である茨城県も全国有数の農業県でありながら状況は変わりません。そこで、カスミは昨年から茨城県と包括連携協定を結び、県庁内にあるカスミの無人店舗オフィススマートショップに、やさいバスのバス停を設置して共同事業として取り組んでいます。 やさいバスは地域の農家と消費者双方に利益をもたらし、地域経済の活性化にもつながる仕組みです。毎日お客さまに新鮮な野菜をお届けすることを責務とするスーパーマーケットとして、持続可能な農業を守るための仕組みを導入する意義は大きいと思っています。生産者の収入を増やし店舗の価値を上げる加藤 ありがとうございます。やさいバスは2017年3月に静岡でサービスを開始したんですが、昨年から急速に利用者が増加し、現在は長野、神奈川、茨城、千葉、愛知、広島で展開しています。山本 地域が共通する課題を抱える中、やさいバスが期待されているということでしょう。 カスミも現在、茨城県6店舗、千葉県2店舗で売り場展開しています。参加している農家さんの反応はいかがですか?加藤 今年2月に参加している全国の農家さんにアンケート調査を実施したんですが、「手取り収入が上がった」という回答が100%だったのは茨城だけでした。カスミさんの影響が大きいと思っています。山本 やさいバスの鮮度の良い野菜がお客さまに支持されているということでしょう。野菜は鮮度によって味がまったく違いますからね。加藤 そうですね。茨城県知事もおっしゃっていましたが、茨城は農産品の価格が低く、どうすれば価値を上げられるかが課題だと…。 そこで私たちとしては、まずやさいバスの配送網で農家さんの物流コストを削減し手取りを増やしました。これからはいかに商品の価値を上げるかが課題です。その意味で、カスミさんのような消費者との接点を持っているパートナーと組み、価値ある野菜をたくさん買っていただいて食卓が豊かになる循環をつくっていきたい対談は感染対策を十分に行った上で実施しています。(マスクは撮影のみ外しました)

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