Cha-ble Vol. 31 2020年6月
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8と思っています。山本 鮮度はスーパーマーケットが追求すべき最も重要な価値の一つです。カスミも地元農家さんによる地元野菜コーナーで地産地消を推進していますが、売れ行きは右肩上がりです。 ところが、農家さんからは「もっと多くのお店に持っていきたいけど近隣の店舗にしか運べない」という声を聞きます。農作業をしながら10店舗も20店舗も広範囲に持って行くのは大変です。自宅から20〜30 ㎞の範囲が限界でしょう。 一方、われわれとしては水戸の産物をつくばで、千葉県のものを茨城県でと、もう少し広範な地産地消を実現したいのも本音です。ヨーロッパでは100マイル(約160㎞)くらいのハイパーローカルと呼ばれる地産地消が主流です。半径160㎞というと関東圏がすっぽり入るくらいです。加藤 まだ実験段階ですが、実は私たちは「さかなバス」も始めていて、長野県でやさいバスを立ち上げた時に、「静岡から来るなら魚も欲しいなぁ」と長野の皆さんに言われて…。山本 なるほど。長野は海なし県ですからね。加藤 野菜を売りに行ったのに魚が欲しいと言われてがっかりしたんですが、ちょうど静岡県が県産の水産物を東京以外でも販売しようという動きのタイミングで、長野・静岡両県の連携で昨年から実験を続けています。そして今年はさらに山梨や新潟まで広げる計画です。山本 日本海ですね。加藤 はい。日本海と太平洋をつなぐ高速道路ができるので、静岡のおいしい魚をアルプスでも食べられるようにできたらいいなぁと。山本 いいですね。これまでは静岡の魚が欲しくても、従来の流通ルートだと全店一斉入荷が前提のため豊洲市場を経由してから届きます。 しかし、これからは1店1店の独自性が大切、自主自立の時代です。売り場づくりでもお店ごとの個性で店舗価値を上げ、同質競合からの脱却を目指す必要があります。 しかもこれからは、顧客接点を多様にしていくことが一層重要になります。カスミは店舗販売以外に、移動販売やオンラインデリバリーで地域内のマイクロ物流に取り組んでいますが、やさいバスもその流れの中の重要な要素で、野菜・果物はもちろん、魚や加工食品も含めて検討したいと考えています。 顔の見える地産地消を重視していくことに変わりはありませんが、やさいバスのようにITを使って小さなネットワーク同士を結びつけ、地域を広げた地産地消に挑戦することが今後の課題です。地域に、おいしさと健康の価値創造山本 やさいバスは物流とITが融合した仕組みですが、農家さんに理解してもらってITを導入してもらうのは大変じゃありませんでしたか?加藤 それはもう大変です。(笑) 「電話やファックスじゃダメなの?」とか、「注文書は紙がいい」とか…。慣れるまで1か月くらいは地域の常駐スタッフがパソコンやスマホのメール画面を電話で一緒に見ながら「こんな感じで注文が来ますから」と二人三脚。でも、やり出すと「こっちの方が便利だな」という70代の農家さんも出てきて、年齢じゃないなぁと思いました。そのうちに農家さん同士が教え合うコミュニティができてくるんです。山本 農家さんと関係性を築く上で心がけていることはありますか?加藤 いつも言っているフレーズは「無理なく、楽しく、おいしく」。農業には農業の速度があります。基本は年単位の収穫サイクルですし、気候条件も地域で異なりますから、私たちが経済合理性を理由に急いだところで、現場は現場のサイクルで回っていきます。山本 相手のペースを大切にする。加藤 そうです、そうです。「今年うまくいったら来年はもう少し増やしてみましょう」といった感じで無理なく参画していただくよう心がけています。 そもそも私たち人類が繁栄できたのは、単位面積当たりのカロリー生産を飛躍的に高めた農業のおかげです。農業が本来やさいバス株式会社代表取締役。東京大学農学部卒業後、英国留学やNASAのプロジェクト参画を経て、キヤノンに入社。静岡に移住し産業用機械の研究開発に従事した後、2009年に起業。ベジプロバイダー事業や農業用ロボット開発を手がけつつ、2017年やさいバス事業を開始。千葉県出身。加藤 百合子さん(かとう・ゆりこ)「無理なく、楽しく、おいしく」つくる人、売る人、食べる人を一つのサイクルに(加藤)

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