Cha-ble_Vol32
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7新しい農業のカタチ山本 事業として植物工場を始めたきっかけを教えてください。山田 2013年に初めて植物工場を見て衝撃を受けました。近未来の新しい農業生産のカタチというか、省資源で、環境負荷が少なく、それでいて食料増産の可能性を強く感じました。食と環境とエネルギーの三すくみ問題の解決策になり得る可能性に魅力を感じました。 同時に、当時の植物工場は技術的にも発展途上でビジネスチャンスを感じ、エンジニアを集めて創業したのが始まりです。山本 私たち小売も食の安定供給が課題です。特に国内農業の気候変動による影響や後継者不足、将来の食料不足も懸念材料です。こうした社会課題の解決と企業の成長を両立させるにはサステナブルな視点を持ったパートナーと課題やビジョンを共有することが何より重要ですが、それだけでなく、今回はその実現のための技術力を持つプランテックスさんと協業できたことが良かったと思っています。山田 ありがとうございます。何のために事業をやるのかという根底部分でお互いに腹落ちし、中長期的なビジョンを共有できるパートナーを得られて我々もとても頼もしく感じています。 私たちがこだわっているのは栽培環境制御です。従来の植物工場と全く違うのは、栽培装置そのものを密閉したことです。作物の生育に必要な温度や光など20種類の環境条件を緻ちみつ密にコントロールすることで、高品質な野菜の、高効率で安定的な栽培を実現しています。 また、野菜の味や栄養成分も調整できるため、将来的には「健康成分をより多く含んだ野菜」などの開発も可能です。人工的に栽培すると言っても遺伝子組み換えなどとは全く違います。何かを変えるのではなく、植物が本来持っている魅力を育てる環境を制御することで最大限に引き出すのが私たちの植物工場の野菜です。山本 植物にはまだまだ可能性がある、ということですね。 野菜には旬がありますよね。例えば、ホウレンソウなら冬のものが味もいいし、栄養価も高いと言われる。露地栽培の場合、その時期の温度や湿度などが生育に一番合っているからでしょう。そうした旬と同じような条件を、より高度に安定的に再現したのがプランテックスさんの技術だと思っています。山田 一般に植物工場の「工場」は英語で「ファクトリー」と表現しますが、私たちは「家」(場)という概念から「プラントリー」(植物の場)と呼んでいます。厳しい自然環境から身を守るためにヒトが家に住み文化的な生活を手に入れたように、成長の環境を整備することで植物本来の力や新しい可能性を引き出せると考えています。山本 技術を追求し、どこにもないものをつくるというプランテックスさんの姿勢に深く共鳴し私たちは協業を決意しました。それは小売業として、単に「仕入れて売る」のではなく、これからは「つくって売る」ことを目指す必要があると感じているからです。目的は高鮮度な野菜を製造業のように安定して供給できる「製造小売」のビジネスモデルをつくることにあります。 その先駆けとして、「ファームベース」という大規模な工場を茨城県土浦市の耕作放棄地に建設しています。このモデルが成功すれば、消費者の皆さんに今以上に高品質な野菜を安定した価格で提供できるようになります。栽培にあたっては農薬を使っていませんし、非常に清潔で菌数も極めて低いため、この取り組みが食品ロスの抑制にもつながります。 他方、生産者の皆さんへのメリットとしては、耕作放棄地を植物工場として有効活用するという選択肢も出てくるでしょう。あるいは農業経験の少ない方でも苦労なく働けるなど、植物工場は露地栽培と共存しながら消費者にも生産者にも持続可能な仕組みになり得る。これは食品専門業としての新たな顧客価値の提供だと思っています。山田 新しい価値を創造しようとするU・S・M・Hさんの姿勢は、まさに私たちと一致していました。植物工場を発展させていく上で農業の諸課題を解決したい思いはもちろんですが、そのために効率や安定性だけを追求するのではなく、成分調整野菜などの高付加価値商品をつくることで植物工場でしかできない価値を提供したいという思いが強くありました。 その意味では私たちの持つ生産技術とU・S・M・Hさんの流通・販売ノウハウを合わせて、製造小売という新しいビジネスモデルとして、単体では成し得ない価値を実現したいと考えています。栽培装置内では作物の成長に必要な20種のパラメータが制御されているグリーングロワーズ※グリーングロワーズ=「自みどり然を栽培する人」という意味

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