Cha-ble_Vol34
12/16

中世の王室料理の絵画や文献を見ると、豪華絢爛、財力と権力を見せつける意図がありありと見て取れる。山海の美味珍味はもちろん、その精妙な味を作り出す料理人たちの労力と知恵があり、また食器やテーブルの装飾にも驚かされる。十八世紀イギリスのジョージ三世の晩さん会では仔牛の頭を食卓で切り分けた。鴨、七面鳥などの家禽にヒバリやムクドリ、シギなどの野鳥が大量に捕獲され、中には絶滅してしまった小鳥もあった。今なら動物愛護協会や環境保護団体が黙ってはいないだろう。近世になると豪奢な調度や美術品など自身の財力を誇示する時代から、国家間による王室外交の役割が求められるようになる。もちろん婚礼や戴冠式など王室独自の式典や行事もあるが、無駄な形式は省略され一般人の生活に近くなる。例えば一九四七年十一月にバッキンガム宮殿で開かれたエリザベス王女とエディンバラ公爵フィリップとの結婚披露宴は質素といってもいいくらいで、舌平目とヤマウズラくらいしか目につく料理はなく、後は野菜とサラダ、デザートくらいだった。料理人は二十分ほどで終わるだろうといったという。第二次世界大戦が終わったばかりで、世界中がまだ食糧不足の状態にあった。され、誰でも味わうことができる。北京の北海公園にある「彷膳飯荘」が有名だ。一九二五年に当時の料理人たちが店を開き、後に国営化された。二度ほど行く機会があったが、中国料理の完成形を見た。豪華で繊細な時間をかけた調理には三千年の歴史が刻み込まれていた。揚げ時にこぼれた皇帝の献上米を食べて肥育した家鴨が始まりと言われる。多くの専門店が北京市内にあり、一般の人が「宮廷料理」を楽しんでいる。         ザベス女王の食卓をみても毎日豪華な料理ばかりを食べているわけではない。アールグレイの紅茶とビスケットに始まるごく質素な食事だった。それでも毎日欠かさずアフ中国の王宮料理も各地で復元世界中に知られている北京ダックも、荷今年の九月に九十六歳で亡くなったエリタヌーンティーを楽しんでいたというから、さすがイギリスの女王だ。エッセイストの林望(はやしのぞむ)はイギリスの最も代表的な食べ物としてジャガイモを挙げるが、女王お一人の食事ではでんぷん類を口にしなかった。現国王のチャールズ三世は中型ジェットの王室専用機を操縦するが、自身の農園で有機食品を栽培するなど環境問題にも関心が高い。世界的な時代の流れということだろう。そのうち、国王自らが腕を揮った料理が、「王室の食卓」に並ぶ日が来るかもしれない。ロイヤルファミリーの食卓しげかね・あつゆき1939年東京生まれ。文芸ジャーナリスト。朝日新聞社社友。元常磐大学教授。「日本文藝家協会」「日本ペンクラブ」会員。著書に『食彩文学事典』(講談社)、『淳ちゃん先生のこと―渡辺淳一と編者者の物語』(左右社)『落語の行間 日本語の了見』(左右社) など多数。12

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る