料理人から農家へおいしく楽しく規模より価値「農家も大事にされている」。そう感じさせてくれた料理人の一言で、彼は農業で生きていくことを決意した。家業は代々農家だったが、兄はパン職人になり、自分も調理学校で学び料理の道へ進むつもりでいた。その出来事があるまでは。それは栗原さんが19歳の夏、アルバイト先のレストランでの出来事だった。実家が農家と伝えると「野菜をお店で使ってみたい」とシェフ。実家の母に伝えると箱いっぱいのバジルが届いた。すると「いいね!ジェノベーゼにしよう」とシェフがその日のメニューに。鋭い目利きと丁寧な仕事、野菜へのこだわりが強い料理人に評価されたのがうれしかった。心を揺さぶられたのは「いい食材があるから料理も生きる」というシェフの一言。「親が褒められた気がして、初めて家業を見つめ直せました。農家の野菜が、料理人の技術を経て、食べた人の笑顔に変わる。その瞬間を19歳で経験できたのが大きかったと思います」 20歳で父親が経営する農園へ。駆け出しの栗原さんだったが、「10年後、おまえが30歳になったら経営を交代する」という突然の父親の一言で火がついた。技術と経営を学び、地域との関係づくり、新たな販路開拓、10年はあっという間に過ぎた。 29歳で事業継承。主力商品を小ネギ、サラダ用野菜、米の3本柱に絞り、食品スーパー、飲食店向けに自社配送9割以上の地域密着農業で鮮度をアピール。契約栽培を基本に安定品質・安定出荷を確立。矢継ぎ早に改革を進めた。中でも、経営者として栗原さんが最初にやったのは「おいしく楽しく野菜とお米で笑顔に」という企業理念づくり。おいしいことが一番。良いものをつくれば食卓がハッピーになる。「農業に『笑』あり」をわかりやすい言葉で伝えたかったという。働きやすさにも力を入れた。腰を曲げずに作業のできる施設、有給休暇100%消化、クラウドを使った勤怠管理、給与体系の見える化も導入した。「働きやすいと、良い商品ができ、評価され、やりがいになる。自分たちの商品にみんな自信と誇りを持っているのがうれしいんですよ」新たに取り組んでいるのは加工品。試行錯誤の末に「本格手作りネギキムチ」の販売を開始した。SNSでは「ねぎニキ」として自らインフルエンサーに。緑の髪と衣装で出演するショート動画でのレシピ提案も好評だ。将来は本格的な6次産業※3化も視野に入れる。目指す農業は規模拡大より新しい価値づくりという栗原さん。「自分で選んだ道が、誰かを楽しく、笑顔にすることができたら最高ですよね」※3 6次産業:農業や水産業などの第1次産業が食品加工・流通販売にも業務展開している経営形態を表す。 地域との関係づくりを大切にする栗原農園は、地元の酒蔵や地域の人たちと一緒に酒造りのイベントを毎年開催している。参加者は田植えや稲刈りなど、米づくりから地産地消の酒造りを体験できる。カスミのオリジナル清酒「結霞(ゆいかすみ) 」も、地域を想うそうした取り組みの中から生まれた。ハウスで行う小ネギの水耕栽培❶小ネギ農家だからできる化学調味料無添加のネギキムチ❷ネギキムチは生たまごごはんとの相性抜群❸栗原さん出演のTikTok「ねぎニキ」❹使い切りしやすい少量パックの 「割烹こねぎ」「ねぎでええやん」❺水耕栽培で育てたサンチュ❻栗原農園でつくる茨城県常陸太田市金砂郷産コシヒカリ❼❽8棟のビニールハウスの中では水耕栽培で野菜が育てられている地産地消の酒づくり「結霞」With地産地消KΛSUMI ❶❷❻❺❽❹❼❸5
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