cha-ble vol35
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バトンタッチ持続的な生産山本 いで農家の後継者になったわけですね。栗原 パン職人なので、自分も料理の道に進むつもりで都内の学校に通っていましたが、アルバイト先のレストランのシェフとの出会いをきっかけに家業を見つめ直す機会があり、悩んだ末に農業を選びました。山本 栗原 2代目です。 20歳で農園に入り、働きながら農業大学校で学び、8年前、29歳の時に父から事業継承し、現在、従山本 川島 で、農家でアルバイトやボランティア活動に携わる中で、食べ物をつくって、「おいしい」って食べてもらえて、自分も生活していく生き方がすごくいいなと思っていました。実家は農家ではないので、周囲からは「農業は大変だぞ」「儲からないからやめとけ」と言われましたね。(笑)山本 川島 の勉強もしようと思い、政策金融公庫という金融機関に就職して、2年間、北海道で融資審査や営業の仕事をしていました。お二人とも、経営のバトンを先代から受け継はい。私は父から農園を継承しました。兄が家業はずっと農業ですか?代々農家ですが、農園経営という点では私で業員約30名の農園を経営しています。商品は水耕栽培の小ネギ、サラダ用野菜、米の3本柱を中心に、カスミさんのようなスーパーマーケット、飲食店、食品加工会社などに納入しています。川島 私は家族や親族以外の就農者が栽培技術や農地を受け継ぐ、第三者継承という形で1年前に茸匠・田村仁久郎さんという親方から事業継承しました。農業を志したのはいつですか?大学時代です。農業経済学を専攻したのそれでも農業をやりたかったんですね。そうですね。卒業後は農業経営のために金融その後、茨城に戻って新規就農を目指そうと思っていた時に、たまたま見つけた笠間市の「地域おこし協力隊」に応募しました。田村きのこ園の親方ともそこで知り合いました。その時に食べた肉厚で大きな椎茸が本当においしくて。衝撃でしたね。それで弟子入りしたんです。相当な衝撃だったんですね。(笑)山本 川島 こんなにおいしい椎茸が地元にあるとは…、なのに後継者がいないと聞いて。直売所に買いに来てくださるお客さまからも、「これがなくなっちゃうのは本当に寂しい」と。地域の特産品として何とか残したいという声が市役所からもあり、その時に自分の決意が生まれた気がします。何としても残したいと。元々農業をやりたいという気持ちと、田村さんという素晴らしい方との出会いもあり、これは自分の使命だと感じました。山本 気候変動や後継者不足、食料不足への懸念など、農業や漁業を取り巻く環境は非常に深刻です。こうした中、私たち小売も考え方を見直す必要があると真剣に考えています。従来、小売は買う立場(お客さま)の代弁者として役割を果たしてきましたが、これからはつくる立場(生産者)の代弁者としての責任も果たすべきです。 40年程前、アメリカのスーパーマーケットが酪農家や野菜農家から牛乳や青果物を全量買い取って販売していると知り、理想的な姿だと思いました。農家の経営が安定すれば、生産基盤が維持され、消費者も安心して食生活を持続できます。地域の農業を守ることを小売の使命ととらえ、カスミはこれからも農業に貢献していきたいと考えています。農家のお二人は小売にどんなことを期待しますか?栗原 私は良いもの、喜ばれる商品をつくりたい、といつも考えています。だからバイヤーさんやお取引先の要望を聞きながら工夫を重ねています。商品の大きさを揃えたり、袋詰めもその一環ですが、実はそうした調整作業が作業全体の半分を占めるのが現実です。その負担が改善されると、もっと生産性が上がるんですが…。出荷前の選果や梱包は、確かに農家さんに山本 とって負担ですよね。我々小売も既存のやり方を変え、一緒に改善していく必要がありそうですね。サイズの大小や曲がりの有無にかかわらず、全てを商品化できる仕組みができれば農家の収益も向上しますからね。栗原 現状では生産量を増やしても、それに応じて選果や梱包といった調整作業と労務コストが増えるので収益向上にも限界があります。もちろん生産性や収益性は大事ですが、従業員の働きやすさや待遇改善という点からも、できるだけ作業を合理化し、生産に集中したいのが本音です。そうでないと若い従業員に夢を与えられないし、安心して長く働ける環境もつくれません。山本 実は我々も今、同じような苦労をしています。我々のグループ企業のユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(U・S・M・H)が植物工場でレタスを生産していますが、工程の中で唯一自動化できず手作業なのが袋詰めと調整です。でも、製造小売を目指す我々にとって、この経験は必ず次のイノベーションにつながると信じています。いずれにしても、農家さんの負担を減らし、本来の生産活動に力を注いでもらえる体制をつくっていくことが一番大事ですね。川島 うちは今、2名のパートさんに働いてもらっていますが、将来は人を増やしてチームでやっていけたらと思っています。親方の卓越した技術を私が学んで受け継いだとしても、その先、また後継者ができなければ、同じ問題の繰り返しですから。そうしないためにも、今のうちからチームで技術を伝承していく体制をつくっていくことが大事だと思っています。栗原 農家の一番のネックは人づくりです。規模拡大やブランド化を目指すにしても、マネジメント力のある人材が必要ですが、一農家が生産と人材育成 7      

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