Cha-ble_Vol17
10/16

10ているんです。岩田 私は最初、自動車メーカーに入ったんですが、2年目のころ上司に工場の車体溶接ラインに連れて行かれましてね、このラインで付加価値を生み出しているのは、あの鉄板と鉄板を溶接して火花が散る瞬間だけだと言われたんです。それ以外の在庫や運搬そして会議もすべて無駄だと思えと。小濵 すごいこと言うな。岩田 それから20年以上経って小売業界に転身したとき、小売業で火花散る瞬間って何だろうかと考えたんです。最初はレジがチーンとなる瞬間かなと、でもなんか味気ないなと…。スターバックスのお店では、カウンターでスタッフがお客さまに商品をお渡しする、あの瞬間。店内にジャズが流れてスポットライトが当たる。自信のある商品を心からの笑顔とともに差し出す。その瞬間にすべてが集約されていると。それに比べたら本社に出す資料や会議などどうでもいい。その瞬間に全員の気持ちやベクトルが向かわないと意味がない。それが小売業の火花散る瞬間だと思いました。岩田 小売業はお店でこそ火花を散らさないといけないんです。ところが店長の多くが土日の一番忙しいときにバックルームにこもって本社に出す報告書をつくっている。本社の営業会議というのは大体月曜の朝ですからね。火花散る瞬間に資料をつくっていたら、ミッションは実現できないのに…。小濵 かつてはカスミもそうでした。岩田 だれを見て仕事をすべきか分かっていないんですよね。小濵 お客さまを見ずに本部を見ている。3年前の震災のとき、本部は現場の状況がつかめずにいた。それで店長に任せたら見事に判断して地域社会から感謝された。そういう事例がたくさんありました。それで確信したんです。イザというときお客さまにとって正しい判断ができるのは本部じゃなくて現場だと。岩田 たぶん店長さんたちも随分判断に悩んだでしょうね。でも責任感や覚悟がすごく育ったと思います。小濵 チェーンストアは50年余り統制と命令の中で運営してきましたが、いまカスミがやろうとしている「ソーシャルシフトの経営」はその逆で、個店が自律的に店舗を運営する経営です。公募で初年度10店舗からスタートしたモデル店舗が今年は58店舗に増えました。岩田 みんな待っていたんでしょうね。震災のときに本部の指示なしでも対応できることを証明したわけだから。 ルールやマニュアルで動くチェーンオペレーションの考え方は一定の質を担保するためには必要ですが、期待以上の満足や感動を生むにはルールより上にある、ミッションや価値観が従業員一人ひとりにまで深く浸透していることが重要です。小濵 理念と哲学を理解し、法律やルールを守れば後はフリーハンド。その場その場で判断し、あなたが正しいと思うことをやればいい。そういう姿勢がこれからの経営には大事なんです。岩田 スターバックスの社長時代に気づいたんですが、ミッションとブランドは実は表裏一体のものだと。スターバックスでは「人々の心を豊かで活力あるものにするために」というミッションを全員で実践している。それはスタッフの笑顔だったり、質の高いコーヒーだったり、居心地の良い空間だったり…。そこからお客さまは「癒されるよね」「元気になるよね」というブランドイメージを抱くようになる。つまりミッションを達成しようと努力し、店舗からお客さまに伝わっていくことでブランドとして認知されていく。決して派手な宣伝広告ではブランドはつくられていかない。ミッションとブラン ミッションとブランドミッションの実践で店舗からブランドを発信できる企業が繁栄していく。(岩田)岩田 松雄さん(いわた・まつお)元スターバックスコーヒージャパンCEO。1982年に日産自動車入社。社内留学先のUCLAビジネススクールにて経営理論を学ぶ。帰国後は、外資系コンサルティング会社、日本コカ・コーラビバレッジサービス常務執行役員等を経て、2009年、スターバックスコーヒージャパン(株)のCEOに就任。現在はリーダーシップコンサルティング代表。

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です