Cha-ble_Vol17
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小濵 スターバックスでアルバイトをした学生は、就職活動で有利らしいですね(笑)。岩田 学生の間では都市伝説になっているようです(笑)。私がザ・ボディショップの社長だったとき、最終面接で多くの学生がスターバックスでアルバイトしてましたって言うんです。どうだったって聞くと、30分くらい延々とスターバックスがいかに素晴らしいかを話すわけです、ボディショップの社長に向かって(笑)。小濵 語りたくなるストーリーがあるんでしょうね。岩田 ええ。彼女らは誇りをもって働いているし、仕事を愛しているんです。小濵 そこまで惹き付けるものは何ですか?岩田 スターバックスではアルバイトでも70時間の研修を受けます。私自身、スターバックスの社長になった時に研修を受けましたが、昨日入ったアルバイトと社長になる人間が同じ教育を受ける。考えたらスゴイことですよね。スターバックスに限ったことではないですが、人って自分が大切に扱われると他人のことも大切にしますよね。小濵 たしかにね。どんな研修ですか?岩田 ミッション教育を一所懸命やるんです。もちろんコーヒーの淹れ方や掃除の仕方といったオペレーション教育もやりますが、かなりの時間をミッション教育に割く。何のために働くのか――そこで働くだれもがミッションを意識してお店に立つわけです。小濵 どんなミッションなんですか?岩田 「人々の心を豊かで活力あるものにするために――ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」 企業の目的は売上や利益を出すことではないのです。あくまでもくつろぎや活力が目的なのです。コーヒーを売ることが使命じゃなくて手段なのです。このミッションをアルバイトも含めた全員で実践するから、「スタバは癒されるよね」「元気になるよね」というイメージをお客さまにもたらし、それがブランドになっているのですね。小濵 カスミも昨年、20人の若手従業員が1年かけて『カスミの価値観』をつくりました。自分たちの言葉でつくった行動指針なんですが、トップダウンではなく現場の想いを掲げることで、自分は何のために働くのか、小売業で働くことの意味と向き合うことが目的です。岩田 私は自動車や飲料メーカーから小売業に来たんですが、最初はとても驚きましたね。「お客さまは神さま」「お客さま第一」、それはもちろん理解できますが、その一方で従業員の扱いは使用人のようで、お客さまに見える所はきれいでも、従業員の執務場所や食堂は比べものにならないほど古くてお金をかけていない。小濵 小売業は「お客さまは神さま」と言いながら、実はお客さまの本当の声を聞いてこなかったと思います。そういう反省に立って、いまカスミはお客さまに一番近い現場の従業員の想いをカタチにしていこうと。それで価値観をつくったんです。 先日、就活中の学生諸君に仕事の使命やロマンというテーマで話をしたんですが、あえて小売業の厳しい現実にも触れました。トップの考えや仕事の使命に共感してくれる人に入ってほしい。そういう想いを伝えたくて。岩田 厳しくてもやりたいという人の方が使命感をもっていると思いますよ。小濵 そうですね。私の駆け出し時代の話をしたんですよ。ダイエーに入社して1年目、社長の講演に鞄持ちでお供したんですが、車が通りの激しい産業道路に差しかかったとき、社長が窓の外を指さして「お前あの光景を見てどう思う?」と私に聞くんです。社長が指さす方を見たら、母親が赤ちゃんをおぶって片方の手で上の子の手を引いて、もう片方の手で買い物袋をもって道路を渡ろうとしている。私が「信号くらいつけてあげたらいいですね」と言ったら、「バカモン!」と怒られた。「お前何のためにこの業界に入ってきたんや。あの人がこの道を渡らんでもいいように、住んでいる近くに店をつくってあげようと思わんのか」と、それが仕事のロマンであり使命だと…。そのときのことが心の中にずっと残っ ミッション―使命 火花散る瞬間『ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由』(岩田松雄著 アスコム)ビジネスにおいても、生活においても、ミッションをもつことの大切さを教えてくれる岩田さんの著書。スターバックスやザ・ボディショップでブランドを再生させた経験と実績を織り交ぜながら、働き方より働く目的を考えることの大切さを分かりやすく論じた一冊。

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